こちらにて
https://suzuri.jp/yutakizawa














俺は今せめぎ合っている。
目の前には極上の美人。
周りには誰もいない。
目の前といっても、本当に目の前だ。
俺と彼女との距離、わずか5cm。
これでキスをしてしまったら、一生妻に負い目を感じて生きていかなければならない。
しかしキスをしなかったら、一生後悔して生きていくことになる。
負い目と後悔。愛情と欲望。男と女。
その距離2cm。
どうしよう。したら終わる。したら終わる。
この積み上げてきた純白な10年間が無駄になる。
耐えろ。耐えるんだ。
ふう。
やめよう。
距離を20cmに離した。
キスをしたところで何も生まれない。
何も残らない。
失うものの方が何百倍も多い。
一時の快楽に溺れてはいけない。
その距離1cm。
彼女の方から近づいてきている??
どういうことだ。
彼女は私とキスがしたいのか?
そもそもこの綺麗な人は誰だ。
もしや妻からの刺客?
だとしたら絶対にすることはできない。
なんだかそう考えたら急に欲がおさまってきた。
この人は僕とキスをしたいわけではなく、恐らく妻からの金のために自分の唇を犠牲にしている。
というかいくら貰ってるんだ、この女は。
妻は一体どこからそんな金を出しているんだ。
私が働いて手に入れた金じゃないか。
私は自分の金とキスをするというなんとも情けない行為をするところだった。
距離を10cmに離した。
おや、彼女が僕をうっとりとした目で私を見ている。
この目は本物だ。
この女は完全に私にうっとりとしている。
彼女は金をもらっていない。
じゃあキスしても問題ないな。
するか。
妻にも言わなければバレない。
1回だけしよう。
引きずらず、たった1回の思い出にしよう。
その距離を3cmに戻した。
彼女がスッと顔を後ろに引く。
その距離30cm。
なぜだ。
この女はキスをする気がないのか。
じゃあさっきのうっとりとした目は何だというのだ。
まさか眠いのか?
なら逆にチャンスだ。
寝させて、その隙にしよう。
早く寝ろ。
私は念じた。
想いは届いた。
彼女は立ったまま眠りについた。
さあ、もうキミの唇は私のものだ。
確かに犯罪だ。
しかしそっとキスをすれば彼女にすらバレない。
誰も知らない、私だけのキス。
私は一切の音が出ないように、ゆっくりと優しく彼女にキスをした。
彼女はゆっくりと目を覚ました。
彼女は妻だった。
トオル「いい景色だね、ミホさん」
ミホ「はい、そうですねえ」
トオル「こんな綺麗な景色をミホさんと見れて良かったな」
ミホ「あ、そうですか。それなら良かったです」
トオル「でもこの夜景より、ミホさんの方が100億万倍綺麗だよ」
ミホ「あ、、はい」
トオル「ミホさん」
ミホ「…はい?」
トオル「好きです。僕と付き合ってください」
ミホ「ごめんなさい」
トオル「え、、何でですか??」
ミホ「私、トオルさんのこと、何とも思ってないです」
トオル「そ、そうだったのか・・じゃあ、せめて!」
ミホ「せめて?」
トオル「せめて、僕と先祖代々受け継がれてきたキスをしてください!」
ミホ「・・はい?」
トオル「お願いします!」
ミホ「何ですかそれ?」
トオル「大丈夫!すれば分かります!」
ミホ「いやいや、しないです」
トオル「いいから!目をつぶって!」
ミホ「やめてください、怒りますよ?」
トオル「何で君が怒るんだ!せっかく僕が告白したっていうのに僕の気持ちを踏みにじって!何てひどい女性なんだ。謝れ!君が僕に謝るんだ!」
ミホ「え、何言ってるんですか?」
トオル「君は我が西山家先祖代々受け継がれてきた気持ちを裏切ったんだ!罪を滅せ!」
ミホ「…私が、西山家の先祖代々の気持ちを踏みにじってしまったの?」
トオル「そうだ。このままでは西山家は滅びる」
ミホ「だめ!そんなのだめ!私なんかのせいで滅びてほしくなんかない!」
トオル「じゃあ、罪を滅ぼすな?」
ミホ「はい。私、氷原ミホは、罪を滅ぼします」
トオル「では、いざ受け止めたまえ。西山家先祖代々受け継がれてきたキス」
ミホ「はい。いざ!」
トオル「スーーーー、ハーーーーー、スーーーー、ハーーーー。いざ!!!!」
ミホ「トオルさん」
トオル「ん?」
ミホ「私の中に、西山家先祖代々の方々が入ってきてます」
トオル「先祖代々の皆さんは、何かミホさんに言っているかい?」
ミホ「はい。聞こえてきます。『西山家へようこそ』『西山家へようこそ』と聞こえます」
トオル「良かったですね。先祖代々の皆さんは、ミホさんのことを受け入れてくれたようですよ」
ミホ「え、本当ですか??嬉しいです。これで罪滅ぼしはできましたかね?」
トオル「いや、あともう一歩です。今から先祖代々受け継がれてきたSEXをしなくてはなりません」
ミホ「え、でも、それはちょっと・・」
トオル「西山家をミホさんに注ぎ込まねばなりません!」
ミホ「でも、それだと、西山家と氷原家が一緒になってしまう!」
トオル「西山家と氷原家が一緒になって何が悪い!水と氷が混じり合うように、酸素と二酸化炭素が混じり合うように、夢と現実が混じり合うように、トオルとミホも混じり合うのだよ!」
ミホ「は、はい!」
トオル「さあ、ラブホテルに行こう!」
ミホ「ラブホテルに行こう!」
「なあ、キスってしたことあるか?」
いや、ない。
「キスってどんな味すると思う?」
別に味なんてしないんじゃない?リップクリームとか口紅塗ってたらそれの味
「お前、冷めてるなあ。じゃあ何も唇につけてなかったとしたら何味?」
ハズレだったら唾液の味、小ハズレだったら少し前に食べた食事の味、当たりだったら無味。
「無味が当たりって、じゃあなんで人はキスするんだ?味もしないのに」
味がしなくたって、人は何でもするよ。人を殴っても味はしないし、殺しても味はしない。でも人はする。
「殺しとキスは違うだろ!」
一緒だよ。どっちも人をだめにする。
「でも、食事は味がするから食べるじゃないか」
味はおまけ。生きるために人は食う。唇に味をつけるのと同じように、食事にも味付けをする。味なんておまけだよ。
「だからキスはなんでするんだよ?」
知りたいか?
「知りてえよ!」
チュッ
何味だった?
「世界が見えた。」
宇宙も見せてやろうか
「はい。」
チュッチュッ
どう?
「ロケットの味がしました。」
ぶっとんだってこと?
「前にロケットを舐めたときと同じ味がしました。」
あ、お前!!!
「そう、俺はロケット舐め舐めお化け。
お前は偽ロケットだ!!!!さらば!!!!!」
ロケット舐め舐めお化けは、またロケットを舐めに宇宙に飛び立った。
被害はまだ止められない。
中国とアメリカが戦争を始めた。
両国のトップは仲が悪い。
中国のチューさん。アメリカのアーメストロングさん。
昔二人はとても仲が良かった。
よく一緒に遊びに行き、お互いの精神論も真剣にぶつけ合った。
しかし、ある日突如二人の関係は音を立てて崩れた。
原因は、目まぐるしく変化した、経済的なアレと軍事的なアレと国際的なアレだった。
激しくなる軍事攻撃。
両国の半分がなくなった。
このままだと両国とも消滅してしまう。
アーメが受話器に手を伸ばす。
アーメ「久しぶりだな、私だ」
チュー「あらあら、どうなされたのですか?こんな最中に」
アーメ「このままだと、お互い大変なことになりそうだが、どうだね?」
チュー「そうですねえ、そろそろ引いてくれませんか?」
アーメ「いやあ、それはできないねえ。なんせ私はアメリカのトップだからな」
チュー「あら、そうですか。ではどういったご用件で」
アーメ「そろそろ決着をつけよう。ただ、人が死なない方法で」
チュー「そんな方法あるんですかねえ?」
アーメ「・・・そんなものありまくるじゃないか。スポーツだっていい、格闘技だっていい、芸術作品や、技術力だって勝負できる!」
チュー「うーん、では、くじ引きにしましょうか」
アーメ「くくくくじ引き~~??」
こうして二人は全世界で生中継される中、国同士の勝敗を決めるべく、くじ引きを始めた。
公平を期するために、くじ引きはインドのTOPが作成した。
元々「アメリカの勝ち」「中国の勝ち」の2枚だけという話で進んでいたが、それではあまりにもあっけない。そんなので国の勝敗が決まってたまるか。という意見が殺到し、まったく関係ない内容も入れようとなっていった。
真っ白の箱の中に入れられたのは、全部で10枚。
全世界の視聴率は、99,99%
全ての人間が注目する中、まずはアーメさんから引くことになった。
実はどちらが先に引くかはモメにモメた。
両国とも、先に引きたいと一歩も譲らなかった。
しかし、3日と8時間による話し合いにより、中国が後でアメリカが先に引くこととなった。
話し合いでも解決できたのだ。
時刻は、日本時間12時。
ステージに上がる、アーメ。
緊張の一瞬。
ゆっくりと深呼吸をし、右手を豪快に箱に入れ込む。
ガサガサガサガサガサ。
約5秒間、箱の中をまさぐり、手を止める。
どうやら1枚選んだようだ。
そして勢いよく、手を引き上げ、紙を開き、堂々と高く掲げる。
カメラがズームアップする。
全世界が目を疑った。
[アーメとチューがハグ]
ザワザワザワザワ
会場の空気の違和感を感じ取り、紙の内容を自分の目で確かめるアーメ。
「Hahahahahahahaha!」
笑った。
アーメ「Hey、チュー。ハグだとよ」
チュー「やれやれ、とんだ世界のお笑い者ですな」
アーメ「インドのやつ、やりやがったな」
チュー「こんな世界中の人間が見守る中、敵対する両国のトップがハグをしたら、
戦争どころじゃなくなりますねえ」
アーメ「いやーどうすっかなあー。でも引いちまったからなあー」
チュー「そうですねえ、仕方がないですかねえ」
どよめく空気の中、ゆっくりと近づいていく二人。
そして、全世界が注目する中、二人は少し恥ずかしそうに笑い、抱き合う。
1秒、2秒、3秒
そして、チューが口を近付ける。
チューが口を近付ける????
受け入れる、アーメ。
受け入れる、アーメ????
そのまま舌を絡ませる二人。
舌を絡ませる二人いいいい????
5秒、10秒、30秒
観客の一人が立ち上がり、涙を流しながら拍手をする。
そして、何人もの人が立ち上がり続く。
世界中のテレビの前の人々も続く。
世界中が、スタンディングオベーションだ。
座っている人間なんて一人もいない。
全員が涙している。
世界が今、一つに!
全人類待望のキス!!!!!!
ー学校の体育館裏ー
タケオ「好きだ、キミのことが好きなんだ」
ミイコ「ごめんなさい、私はそんなに好きじゃないです」
タケオ「何でだ??こんなにも好きだっていうのに!」
ミイコ「あなたが私をどんなに好きだろうと関係ないです。さようなら」
タケオ「ちょっと待ってくれ!じゃあどうしたらいいっていうんだ、この気持ちは!」
ミイコ「知りません。他の人を好きになってぶつけてください」
タケオ「無理だ、キミ以上に好きな人なんて、この先できる気がしない!」
ミイコ「あなたの事情は知りません。それじゃあ、もう行きますね」
タケオ「待ってくれ!!本当に好きなんだ。僕以上にキミを幸せにできる人なんて一人もいない!絶対に幸せにするから」
ミイコ「私はもう十分に幸せです。もう、本当に行きますね」
タケオ「待ってくれ!リョウコ!!!!」
ミイコ「リョウコ・・?誰??」
タケオ「隙アリ!ぶちゅーーーーーーーーーーーーーーーー」
ミイコ「・・・・・・・・・・・・・・ハヘハヘハヘ~~。タケ~オヒャンンン~~」
何もない。
僕はたった一人だ。
たった一人で生き、たった一人で死ぬ。
もう疲れたよ。
今から、僕は死ぬ。
悔いはあり過ぎるけど、もうこのまま生きているのがつら過ぎる。
あと2分後、
僕はこの高いビルの屋上から真っ逆さまに飛び降り、この世から存在がなくなる。
遺書を書こうと思ったが、向ける人がいない。
好きな人も。両親も。兄弟も。友達も。
僕には何もない。誰もいない。
さあ、いこう。
「ちょっと待ってーーーーーー!」
え?
だれ?
「ハアッハアッハアッ…村上くん!待って!」
なんで、三好さんが。
たまたま…?
「何やってるの!勝手に死のうなんて思わないで!!」
勝手?
何を言ってるんだ…
僕となんかほとんど話したことなんてないのに。
「お願いだから死なないで!何が不満なの?私にできることなら何でもするから!」
キスしてください。
「は?死ね」
ピューーーーーーーー
僕は死んだ。
死んだ僕に彼女はそっとキスをした。
僕は復活した。
パワー・オブ・キス。
僕は今、世界記録に挑戦中だ。
5523、5524、5525、、
だんだん唇がパサパサとしてきた。
相手の女性はまだ、大丈夫そうだ。
僕のせいで失敗したら申し訳がない。
この女性とはおととい初めて出会った。
たくさんの応募者の中から悩みに悩んだ結果、くじ引きで彼女を選んだ。
彼女のことはほとんど何も知らない。
27歳、未婚、OL、趣味読書、特技読書早読み、血液型O型。
見た目はそこそこ綺麗といった感じだ。
今、彼女は何を考えているのだろう。
僕たちは今、目を開けてしている。
そうでないと、タイミングや場所がずれてしまうのだ。
目を開けたり閉じたりも面倒なので、基本開けるようにしている。
9764、9765、9766、、
彼女が目を閉じ出した。
僕のリズムが分かってきたのだ。
試しに僕も目を閉じてみる。
いや、だめだ。まだ彼女の呼吸を読み取ることができない。
どうしても口の位置がずれてしまう。
ずれてしまうと、唇への衝撃の加重、ずれたという精神的なダメージ、
ほんの僅かなことだが、そのほんのわずかなことの積み重ねが命取りとなる。
14569、14570、14571、、
だんだんと首が疲れてきた。
首だけを動かすと首への負担がでかくなってしまうようだ。
もっと上半身全体を使って唇を近づけていかなければ。
21965、21966、21967、、
だんだんと、上半身も疲れてきた。
もっと下半身も使って全身を動かし、唇を近づけなければならないようだ。
しかしこれは逆に相当きつい。
もっと負担を軽減するために、流れるように、風になびくように、波に長されるように。
己を忘れ、自分が自然の一部になったように。
唇と唇が触れ合うか触れ合わないかギリギリのところで。
48789、48790、48791、、
もう疲れることはなくなった。
自然は疲れを知らないからだ。
彼女も僕と同じ境地にいる。
僕たちは自然だ。もう誰にも止められない。
167825467229、167825467230、167825467231、、
2回四季を超えた。
どうやら2年が経ったようだ。
僕らのことはもう誰も気にも止めない。
僕らは完全に自然となった。
自然になると、破壊が生まれる。
僕らは破壊された。
痛みは感じないが、体がバラバラになっているようだ。
目の前にも、バラバラになった彼女がいる。
そういえば、こんなに1つになれたのに、この子の名前を僕は知らなかった。
最後の力を振り絞って、僕は聞いた。
「ねえ、君の名前は何て言うの?」
彼女は消えかかった意識の中、こう答えた。
「I love you.」
2人は消えた。
テレビの向こう。
男性が深刻な顔で我々に向けて話している。
どうやら今日、世界が崩壊するようだ。
今から、僕の最愛の女性かおるさんが家にやって来る。
ニュースを見たかおるさんが今すぐ会いたいと言ってくれたのだ。
本当に今日で世界が終わるなら、
この最後の日を、僕はどう過ごすのが正しいのか。
ピンポーン
かおるさんがやって来た。
僕はかおるさんと最後を過ごす。
のか?
本当にそれでいいのか?
もうやり残したことはないのか?
かおるさんと一緒に過ごせば、自分で思ったように行動できなくなる。
そして、僕はかおるさんのことを愛しているが、かおるさんともうやり残していることはない。
たくさんの同じ時間を過ごし、たくさん愛し合った。
最後にそういった日が1日増えることで、何も変わらない。
僕はかおるさんと会ってはいけない。
ピンポーン
出ない。
出ないぞ。
じゃあ、他に何をしよう。
やり残したこと。やり残したこと。
そうだ。
あれだ。
僕は勢いよくドアを開け、引き留めるかおるさんの腕を振り切り、街へ飛び出した。
ブチューー
ブッチューーーー
ブチュブチュブチュチュチュチューーーーー
僕は、そこら中の女に問答無用にキスをしまくった。
美女。美少女。人妻。女子高生。女子中学生。幼女。中年女性。高齢女性。ばばあ。
何人しただろう。
普通だったらあっという間に捕まってしまうが、
今日は何をしても取り締まる人間なんて一人もいない。
他のみんなもやりたい放題だ。
最高だ、最高の日だよ。
これでもう死んでも悔いはない。
「たかしくん!」
かおるさん…
「何してるの? 何で私から逃げるの?」
そ、それは・・・
お前が、お前のことが好きだからだよ!
「たかしくん・・嬉しい」
かおる、結婚しよう。
「え?だって今日で世界終わっちゃうじゃん…!」
かおる、関係ないよ。
僕たちは結婚するんだ。
もしこの世がなくなっても、あの世で二人で一緒に暮らそう。
「うん!あの世でもずっと愛してるよ、たかしくん」
ああ、俺たちの愛は、永久に不滅だな。
「ふふ。笑 長島さんだね!」
そう、長島さん。笑 よく知ってるね。
「え??あーーーーー!!長島さん!!!!本物いる!!本物!!!!!!」
え??
スタタタタタタタタタ
「長島さ~~~ん、キスしてくださ~~~~~い」
「ああ、いいとも!」
おい、かおる!
ずるいぞ!!
俺も~~~~~~ 長島さ~~~~~ん
ブチューーーーーーー!
そして世界は終わった。
今、僕とかおると長島さんは、あの世で仲良く暮らしている。
子供もできた。
3人の子供だ。
僕たちは、死んでも幸せだ。
僕たちの幸せは、永久に不滅だ。
決めたぜ、逆転サヨナラ満塁ホームラン。
駅前。
真正面で向き合っている僕と彼女。
いや正確には、たった今、元彼女になった人。
僕は4年半の時間に別れを告げた。
理由はひとことでは言えない。
何というか、僕と彼女は住む世界が違う。
彼女の周りには、いつもたくさんの友達がいる。
僕はいつも一人だ。
彼女はいつも明るい。
僕は根暗だ。
彼女はいつも予定が詰まっている。
僕はバイトしかしていない。
彼女はいつも笑っている。
僕は彼女のいる前でしか笑えない。
僕には彼女しかいない。
別れを告げたその15秒後、僕は別れを撤回した。
遅かった。
たった15秒で、彼女の気持ちは遥か遠くまで離れ、
もう彼女の目は僕を僕として見ていない。
嫌だ。
別れたくない。
住む世界が違うのが何だ。
性格が違うのが何だ。
僕には彼女しかいない。
僕は彼女といるときだけ生を感じることができる。
ようやくそれに気づけたんだ。
ダメだ。
行かないでくれ。
これからもずっと僕の側にいてほしい!
「もう、遅いよ」
人生の全てはタイミングだ。
15秒、あの子が歩いてくるのが遅かったら。
15秒、家を早く出ていたとしたら。
15秒、電車が早く来てしまっていたら。
そんなことの連続だ。
僕は、そんな大事な15秒を、最悪のタイミングで与えてしまったんだ。
人生の全てはタイミング。
まだやり直せる。
次のタイミングを見誤らなければ。
「じゃあ、私、帰るね」
さあ、どうする。
彼女が僕の返事を待つ限界が、恐らく15秒。
15秒後には、彼女は僕の元から去ってしまう。
考えろ。
15秒間、必死に考え、最良の答えを導き出すんだ。
何を言おう。
どう動こう。
残り、5秒。
だめだ。
何を言っても彼女を引き止められる気がしない。
残り2秒。
どうしよう・・
残り1… 待って!
ガバッ
僕は人生最高のハグをした。
バチーーーーーン!!
人生最高のビンタが帰ってきた
ブチューーーーーーーー!
人生最高のキスで返す。
ガシッ シューー ズドン!
くっ、人生最高のパイルドライバーだ・・
この女とは別れよう。
俺はパイルドライバーをしない女がいい。