「限界のキス」

僕は今、世界記録に挑戦中だ。
5523、5524、5525、、

だんだん唇がパサパサとしてきた。
相手の女性はまだ、大丈夫そうだ。
僕のせいで失敗したら申し訳がない。

この女性とはおととい初めて出会った。
たくさんの応募者の中から悩みに悩んだ結果、くじ引きで彼女を選んだ。
彼女のことはほとんど何も知らない。
27歳、未婚、OL、趣味読書、特技読書早読み、血液型O型。
見た目はそこそこ綺麗といった感じだ。

今、彼女は何を考えているのだろう。
僕たちは今、目を開けてしている。
そうでないと、タイミングや場所がずれてしまうのだ。
目を開けたり閉じたりも面倒なので、基本開けるようにしている。

9764、9765、9766、、

彼女が目を閉じ出した。
僕のリズムが分かってきたのだ。
試しに僕も目を閉じてみる。
いや、だめだ。まだ彼女の呼吸を読み取ることができない。
どうしても口の位置がずれてしまう。
ずれてしまうと、唇への衝撃の加重、ずれたという精神的なダメージ、
ほんの僅かなことだが、そのほんのわずかなことの積み重ねが命取りとなる。

14569、14570、14571、、

だんだんと首が疲れてきた。
首だけを動かすと首への負担がでかくなってしまうようだ。
もっと上半身全体を使って唇を近づけていかなければ。

21965、21966、21967、、

だんだんと、上半身も疲れてきた。
もっと下半身も使って全身を動かし、唇を近づけなければならないようだ。
しかしこれは逆に相当きつい。
もっと負担を軽減するために、流れるように、風になびくように、波に長されるように。
己を忘れ、自分が自然の一部になったように。
唇と唇が触れ合うか触れ合わないかギリギリのところで。

48789、48790、48791、、

もう疲れることはなくなった。
自然は疲れを知らないからだ。
彼女も僕と同じ境地にいる。
僕たちは自然だ。もう誰にも止められない。

167825467229、167825467230、167825467231、、

2回四季を超えた。
どうやら2年が経ったようだ。
僕らのことはもう誰も気にも止めない。

僕らは完全に自然となった。

自然になると、破壊が生まれる。
僕らは破壊された。

痛みは感じないが、体がバラバラになっているようだ。
目の前にも、バラバラになった彼女がいる。

そういえば、こんなに1つになれたのに、この子の名前を僕は知らなかった。

最後の力を振り絞って、僕は聞いた。

「ねえ、君の名前は何て言うの?」

彼女は消えかかった意識の中、こう答えた。

「I love you.」

2人は消えた。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です