「ビルになっている」

 

朝起きたら、私はビルになっていた。

 

今までは、もちろん人間であった。
歌をうたっていた。
円満な家庭も築いていた。
起きたらビル。

考えられない。
気でも、
狂ったのだろうか。

毛などもちろんない。
声も出ない。
支えている、ただ。
下には、虫のような人間がうじゃうじゃ見える。

全てがおかしい。
世界が狂ったのか?
外の国は、今どうなっているのだ。
ただごとではないぞ、これは。
地球全体がおかしなことになっているに違いない。

 

月が出てきた。
点々と街に明かりが灯る。

トイレにいきたい。
何も下半身には、ついていないはずなのに。
荷物をたくさん背負っているみたいに、人が重い。
ぬるま湯に浸かった人間どもめ。

眠くなってきた。
野垂れ死にそうだ。

半目で街を眺めると、
光輝く
風景がみえる。

ヘドが出そうだ。

本当に出てしまった。

 

また、出てしまった。

 

みんな、気付いただろうか…。
虫は、気付いたようだ。
目をつぶったから。

もうじき朝がくる。

山が遠くにみえる。
有名な山だ。

夜が明けた。

 

ライブをする日だ今日は。

リキッドルームで。
ルイ・アームストロングのカバーを主に歌う。

列車が動き出した。

 

老人が、こちらを見上げている。

私も、老人を見下ろす。

 

ヲッカを突然、吹きかけてきた。

 

「んだコラ?!」・・・私は声を出せた。

 

 

「ビルを登っている間」

 

ある日、僕はビルの壁を登っていた。

いつもなら階段で登っていくのだが、
運動が最近足りていない気がしたので、
えんやこらと、壁を登ることにしたのだ。

「おはよー」「おはよー」と、社員の声が中から聴こえてくる。
課長の姿も見えた。
気付いてはいないようだ、こちらには。

曇り気味の空。
結構いい気温。
小鳥のさえずり。
爽やかな風。
下を見ると、人間が豆のように見える。

素っ裸も考えたが、
背広をちゃんと着ることにした。
そびえ立つ山が私を見ている。
ため息はやめよう。

力、
尽きるまで、
手がボロボロになるまで、
父さんは登るよ。

何を思う、息子よ。

憎んでいるかい?
沼に沈めたいかい?
妬んでいるのかい?
野放しにして、自由に生きてきた父さんを。

母はいない。
引っ越しも散々した。
不良にもなるよなそりゃ。
変な父さんですまん。

本当にすまん。

まだ私のことを、父さんと思ってくれているかい?
見てくれているかい?父さんのことを。

息子よ。

 

目立っているよ、父さんは今。
もうじき、ニュースにもなるだろう。

辞めさせられるかもしれない、会社を。
有名になるのと引き換えにね。
欲深いんだ、父さんは。

楽勝だよ、こんなビルなんて。
リスクは考えない。
留守に家をしばらくしてしまうかもしれない。
連絡もしばらくできないかもしれない。

牢屋に入るということだ、つまりは。

 

私は、しばらく身を隠します。

 

ヲンテッドされるだろうから。

 

 

ん?息子よ。何故、お前も登っている。

 

 

 

「ビルから落ちている間」

 

ある日、僕はビルから落ちていた。

いつからだろうか。
運がなくなったのは。

遠足のときは森で迷ってクマに襲われるし、
落ちている犬のフンは毎日のように踏んでしまう。

かなりの速さだ。
気付くともう17階から4階まで落ちている。

悔しい。。
結婚もしないまま、
このまま死んでいくのか。

サラリーマン三年目にして、
死亡。

すぐにみんなの記憶からもなくなるだろう。
世界で今日、何人の人が死んだのだろうか。
そのうちの一人だ、僕は。

助けはきっと来ない。
地上にこのまま落ちていくのみ。
つまり死ぬ。

手紙でも残しておけばよかった。
父さんともっと分かり合いたかった。
何故、僕が。。

人間はたくさんいるじゃないか。
ヌクヌクと何の目的もないまま生きてるやつがたくさんいるじゃないか。

ねえ、母さん。
喉から手が出るほど命が惜しいよ。
半分もまだ生きてないよ。

ヒーローになりたかったんだ。

普通の人生で終わりたくないよ!

平凡すぎるよ、こんな人生!
本当に!

 

まあ、いいか。

未来なんて、
無に等しかったから。

面倒くさいし。

もう、いいや。

 

やっぱ、嫌だ!!
夢だ!これはきっと夢だ!
よくあるぞ、このパターン!
ラストで絶対目が覚める。

理解できないもんなやっぱ。
ルール無用すぎる。

冷静になれ。

 

ロックミュージックが頭の中で流れるなか、

私は死んだ。

 

ヲタクが僕の死体を見下ろし、こう言った。

 

「んじゃ」