「ビルを登っている間」

 

ある日、僕はビルの壁を登っていた。

いつもなら階段で登っていくのだが、
運動が最近足りていない気がしたので、
えんやこらと、壁を登ることにしたのだ。

「おはよー」「おはよー」と、社員の声が中から聴こえてくる。
課長の姿も見えた。
気付いてはいないようだ、こちらには。

曇り気味の空。
結構いい気温。
小鳥のさえずり。
爽やかな風。
下を見ると、人間が豆のように見える。

素っ裸も考えたが、
背広をちゃんと着ることにした。
そびえ立つ山が私を見ている。
ため息はやめよう。

力、
尽きるまで、
手がボロボロになるまで、
父さんは登るよ。

何を思う、息子よ。

憎んでいるかい?
沼に沈めたいかい?
妬んでいるのかい?
野放しにして、自由に生きてきた父さんを。

母はいない。
引っ越しも散々した。
不良にもなるよなそりゃ。
変な父さんですまん。

本当にすまん。

まだ私のことを、父さんと思ってくれているかい?
見てくれているかい?父さんのことを。

息子よ。

 

目立っているよ、父さんは今。
もうじき、ニュースにもなるだろう。

辞めさせられるかもしれない、会社を。
有名になるのと引き換えにね。
欲深いんだ、父さんは。

楽勝だよ、こんなビルなんて。
リスクは考えない。
留守に家をしばらくしてしまうかもしれない。
連絡もしばらくできないかもしれない。

牢屋に入るということだ、つまりは。

 

私は、しばらく身を隠します。

 

ヲンテッドされるだろうから。

 

 

ん?息子よ。何故、お前も登っている。

 

 

 

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