「広い部屋」

 

どこだ、ここは。

静かだ。

 

目が覚めると私は、広い部屋にいた。
どうやら私は、この部屋に閉じ込められているようだ。
やけに広いな。

それにしても不思議な部屋だ。
半分が暑くて明るく、もう半分が寒くて暗い。
私はその、ちょうど真ん中にいるようだ。
どちらかに行ってみようとしたが、うまく体が動かせない。

私は、杭に縛りつけられていた。

ん…暗い方の奥に誰かいるようだ。
肌が黄色い。黄色人種だろうか。

「おい、そこに誰かいるのか?」

と、呼びかけようとしたが、無理だった。
私は完全に疲れ切っていて、体をジリジリと動かすのがやっとの状態だった。
どうやら向こうも、私と同じ状態のようだ。

しかし一体何故、こんな部屋に連れて来られたのだろうか。
何で私が、こんな目に遭わなければならないのだろうか。
誰が、いつ、何の目的で。

私の過去の記憶は、一切消えてなくなっていた。

私は誰なのか、
年齢はどのくらいなのか、
何のために、誰が、どのタイミングで、私をここに連れて来たのか、
ここは、この広い宇宙のどの辺りなのか、
そして私は、これからどうなるのか…。

 

あ、一つ思い出した。

 

 

ここは宇宙だ。

 

 

「狭い部屋」

 

どこだ、ここは。
苦しい…

目を開けると私は、多くの何かの中にいた。

死体だった。
数えきれないほどの死体と共に、私はこの狭い部屋に閉じ込められていた。
息があるのは、私だけだろうか。
一体、何故…

声を上げようにも、いかんせん苦しすぎて、そして体も弱り切っていたため、
一切声は出せなかった。

私は白人だ。
もともとは黒人であった。
くだらないやつらの仕業で、白人にさせられた。
勝手なやつらだ。

そして私は殺された。
しかし、生き残った。
生き伸びてやる。
何としてでも。
そのために、まずは、この状況をどうにかしなければ。
しかし、どうにも体が動かない。くそ。

…少し部屋が明るくなった。
上の死体たちがどかされているようだ。
再び、闇が訪れた。

半日が過ぎた。
腹が減った。

再び、光が訪れた。
前回よりもさらに明るい。
徐々に徐々に明るくなってくる。

チャンスだ。逃げ出そう。

生きていることを悟られてはいけない。
死体を装って、やつらに動かされたその後がチャンスだ。
タイミングを見誤るな。

きた。

目を閉じろ。

動くな。

 

私は部屋の外に出され、折りたたまれ、

鼻をかまれた。

 

体中、鼻水まみれにされ、
クシャクシャに丸められ、放り投げられた私は、
タイミングを見計らって、
ゴミ箱から脱出した。

 

 

こうして私は生き伸びた。

 

 

 

「伝説の剣」

 

ついに、ついに、私は手にすることができた。

旅に出てから、約5年。
最初は、素手から始まった。
世にも奇妙な、怪物たち。
恐ろしい魔法を使う、魔法使い。
残虐極まりない魂を持った、悪魔一族。

多くの敵と戦っていくうちに、私の武器は、素手から、木の棒になり、
鉄パイプ、小さな剣、斧、鋭い剣、魔法の出る剣、
大きな斧、魔法も出るし鋭い剣、と徐々に徐々に変化していった。

そして、ついに見つけた。

「地獄の山」を登ぼっていき、途中の「迷いの森」を抜け、「亡霊の洞窟」に入っていき、「亡霊の洞窟」の奥に潜む「スリープドラゴン」をどうにか倒し、「スリープドラゴン」が飲み込んでいた「奇跡の宝箱」を取り出し、「奇跡の宝箱」を「驚愕の谷」で手に入れた「風神の鍵」を差し込んで開けると、「奇跡の宝箱」の中には、「伝説の剣」が入っていた。

この「伝説の剣」で切れないものは、何ひとつないという。

私は、ついに手にすることができたんだ。

 

だが、敵はもういない。

 

 

 

 

「私は歩いた」

 

私は歩いた。

どこに向かって歩いているのだろう。

敵はいない。
味方もいない。
時代は錯誤している。
今年で私は38歳だ。
今、私はどこの国の地を歩いているのだろう。

歩き始めて、もう3年が経つ。
いや、正確には分からない。感覚的には3年ぐらいだと思う。
あれだけ研ぎ澄まされていた私の感覚も、これだけ歩いていれば鈍くなってくる。
もしかすると、5年かもしれない。
もしかすると、まだ3ヵ月かもしれない。
もしかすると、私は歩いていなかったのかもしれない。
もしかすると、ここはもう地球ではないのかもしれない。

もはや何が正解で、何が本物か、私には一切分からなくなってきている。
それでも私は歩く。

靴の底はペロペロに擦り切れ、
地面の小石の尖った感触が、足の裏に直接、伝わってくる。
もう、痛みはない。
逆に、平らな地面を歩いたときの方が、
自分の足の裏に穴が開いていることを実感してしまい、痛みを感じる。

今日は、虫を食べた。

草を食べた。

川を飲んだ。

星が降ってきた。

よけた。

当たるととても痛い。

今日はよけられた。

今日はいい日だ。

 

今日はいい日だ。