「大人オチ」

 

目覚ましが鳴っている。

 

もう朝か。

 

現在、7時10分。
家を出るまでには、まだ50分ある。

もう5分は寝れるな。

 

 

目を覚ますと、8時10分だった。

「何で起こしてくれないんだよ…!」

そう母さんに文句を言いつつ、
僕は大急ぎで学校へ行く準備をする。

「何度も起こしたけど、あんた起きないじゃない」

目線はテレビにいったまま、母さんが言う。

「ちゃんと起こしてよーーーー」

僕は、ブチュッと歯磨き粉を塗り付けたハブラシを、口に入れる。

 

その時、僕はイラついていたんだ。

 

 

食パンを口にくわえ、家を飛び出し、自転車にまたがる。

ここからが腕の見せ所だ。

もし、僕の家から高校まで、世界中の人間が自転車で競争したとしても、
僕は優勝する自信がある。
最短のルートを知っているし、 車が出てくるポイントも知っている。
注意すべき段差も把握してるし、 あと単純に自転車を漕ぐのが速い。

単純に走ると30分はかかる道のりだけど、
僕が本気を出せば15分でいける。

でも今日は、10分で着かなきゃ遅刻だ。

 

僕は心のスイッチを入れた。

 

一つのミスもなく、一切止まらず、 高校までの道を走り抜ける。

近所のおばさんの挨拶には見向きもせず、
犬のペロも、今日は無視。

 

走る。

 

走る。

 

 

漕ぐ。

 

 

結論から言うと、僕は間に合わなかった。

めちゃくちゃ急いだのに遅刻扱いになったときの絶望感は、
半端ではない。

今日で遅刻は20回目だ。

 

コソコソと教室のドアを開け、そそくさと自分の席に向かう。
2・3人の友達が、僕を見てクスクスと笑っている。

先生が、席に着こうとする僕の方を見た。

「すみません」

僕は怒られる前に、すまなそうに小声で言った。
また、2・3人の友達が笑っている。

僕はちらりと神田さんの方を見た。

神田さんも、僕を見て少し笑っている。

 

それを見て、僕も笑った。

 

今日は、話せるかな?

 

 

僕は勉強が嫌いだ。

いや、勉強自体が嫌いというよりは、授業が嫌いだ。

昼休みが待ち遠しい。

 

よし、今日は話そう。

 

僕は、もう一度神田さんの方を見た。

神田さんは、黒板の文字をノートに写している。

いや、違う。

 

僕は、大人だった。

 

 

 

「確かめるパンチ」

 

ついにきた。

 

決戦のときが。

 

相手の右手には鉄バット。
左手には鉄パイプ。

僕は素手。

 

相手が飛びかかってきた。

ボコボコに殴られた。

たくさん流血した。

たくさんたくさん流血した。

僕は入院した。

 

僕はあいつに負けたんだ。

 

入院3日目。

あいつが、お見舞いにきた。

 

そして泣きながら、土下座をして謝ってきた。

 

僕は、今にも飛びかかりそうな自分の気持ちを抑え、

あいつを許した。

 

でも、僕の右手は、ずっとあの形になっていた。

 

 

確かめるパンチ。

 

 

「確かめられた」

 

散歩に出かけた。

お巡りさんとすれ違った。

 

私は確かめられそうだったが、
どうにか下を向いてやり過ごした。

 

散歩を続けた。

何気なく後ろを振り返ると、お巡りさんが戻ってきていた。

 

やばい、確かめられる…!

 

私はとっさに隠れた。

お巡りさんが、必死に私を探している。

絶対に、絶対に、
私のことを、確かめたがっている!

 

私はもう我慢できなくなり、裸になって飛び出し、捕まった。

 

でもいい。

私は自分という人間を、他人ではなく自分で、

 

 

確かめられた。

 

「確かめるな」

 

リナ「ねえねえ、今日何する~?」

ミホ「カラオケいこうよ~カラオケ~」

リナ「ええ~~昨日も行ったじゃん~カラオケ!」

ミホ「カラオケは、2日連続で行くことによって完成されるのだ!」

リナ「え…、ミホ何言ってんの?」

ミホ「ウソではない。カラオケは2日連続で行くことによって完成される」

リナ「ほ、本当…?」

ミホ「ああ」

 

こうして2人は、カラオケに2日連続で行くことになった。

 

しかし、カラオケは完成されなかった。

 

 

どんな仲の良い友達に言われたことでも、
人の言うことを全て信じてはいけない。

 

何事も、真実は自分の中にある。

 

 

確かめろ。

 

自分で。

 

 

人のことは疑え。

 

 

確かめるな。

 

「確かめろ」

 

よく見てごらん?

 

君たちには見えているかい?

 

くだらないものや、必要のない情報に惑わされて、
本当に大切なものが見えなくなっていないかい?

 

男「私には見えています」

本当かい?

男「本当です」

じゃあ、今、君には何が見えているんだい?

男「あなたです」

それは、本当に大切なものかい?

男「はい、大切です。何よりも。  結婚しよう」

 

……ありがとう。

でもちゃんと自分の気持ち、確かめた?

 

男「いや」

 

確かめろ。

 

「夢オチ3」

 
すげえ。
何だこれは。
空からたくさんお金が落ちてくる。

夢みたいだ。
大量の札束と、大量の小銭。
小銭が体に当たると、少し痛い。

いや、少しどころではなかった。
ドスッ!ドスッ!ゴス!ドスッ!ドスドスゴスゴスドスドス!!!!
凶器の雨。

地獄だ。

家が潰れた。
人も潰れた。
地球が潰れた。

俺は生き残った。

俺だけが生き残った。

この地球、いや、このお金は全て俺のものだ!

地面には、隙間なくビッシリとお金が埋まっている。
もはやこれは地球ではないな。
金だ。
地球は金だ!

 

ガバッ!

「地球は金だ!」

 

ザワザワザワ…

 

先生「島田くん・・・正解。」

 

 

「夢オチ2」

 
何だかフワフワした気分だ。
ふと気付くと、僕は空を飛んでいた。

夢みたいだ。
こんなことが現実で起きるんだ。

僕は鳥が好きだ。
どこへでも、どこまでも、自由に飛んでいける。
鳥が、僕の憧れだった。
特に好きなのがトンビ。
海の上を自由に飛びまわるトンビを、僕はずっと見て育ってきた。
そのトンビが今、僕の横を飛んでいる。
夢が叶ったんだ。

ん、まてよ。
よくよく自分を見てみたら、トンビの姿をしているじゃないか。
僕はトンビだったのか。

すると、隣のトンビがスピードを上げ、先に飛んでいってしまった。
僕も追いかけた。

ずっと夢を追いかけてきた僕は、
夢が叶った今、トンビを追いかけている。

 
そしてトンビを追いかけてきた僕は、
目が覚めた今、時間に追いかけられている。

 

 

「夢オチ」

 
僕は夢をみた。

僕が大人になって、超大物俳優になる夢だ。
僕はとても格好よくて、ものすごい注目を浴びてて、
ものすごい輝いている。
女子にもモテモテでね。
あの子と付き合えたり、あの子とキスできたりして。

あーなんだかワクワクしてきたなあ…

夢だけど。

 
僕の20年後の夢だけど。

 

 

「卵が動いた」

 

目が覚めた。もう朝か。
僕は化粧を落とし、カーテンを左手で開けた。
冷たい世間の光が差し込んでくる。なんだかあまり寝た気がしない。
窓を右手で開けた。
世界の空気が僕を通り抜ける。

「ふう。」

今日は、なかなかいい「ふう」が出た。何だかいけそうな気がする。
僕は両手で窓を閉め、トイレに駆け込んだ。
シャーーーーーーーー
ジャーーーーーーーー
僕は後ろを振り向かずに、ドアを閉めた。

「着替える前に、朝食を食べよう」

僕は取り出しかけた着替えを放り投げ、タンスを引っくり返した。

「朝食、朝食、朝食」

僕はキッチンに飛び込んだ。

「食パン、食パンはどこだ?」

キッチンを全身でまさぐった。

「食パンがない!食パンがない!」

だんだんと僕に焦りが見えてきた。

「冷やしたか?」

すぐさま左手を伸ばし、冷蔵庫をこじ開けた。

「ない、ない、ない」

食パンがどこにもない。冷凍庫にもなかった。
昨日の夜まで、確かにここにあったのだ。僕の頭は混乱した。
全身が痩せ細ってきた。
身の危険を感じた僕は、思わずテレビを付けた。
どうやら、食パンの生産は終了したらしい。

「ふう。」

僕はリモコンを投げた。
卵が動いた。

 

『歯ブラシに見えた』

僕は食パンを諦め、冷凍していたご飯を温めた。

「おかずはどうしようか。」

即座に納豆に決まった。
納豆を混ぜる。納豆を混ぜる。納豆を混ぜる。僕は納豆を混ぜた。
カチーーーーン
ご飯が温め終わったようだ。
レンジを左手で開け、左手でご飯を取り出す。
しまった。まだ、飲み物が決まっていなかった。

「どうしよう。」

即座に烏龍茶に決まった。
僕は、納豆とご飯と烏龍茶を順番に顔の口に運んだ。
もう食パンのことなど、とうの昔に忘れていた。
今日の天気はいかがだろうか。
僕はテレビを付けた。
どうやら晴れらしい。
僕はリモコンを投げた。
何だあれは。

歯ブラシに見えた。

 

『歯磨き粉が消え失せた』

飯も食ったし、お着替えをしよう。
僕は一瞬で皿を洗うと、一瞬で着替え終わった。
何だか空気が湿っぽかったので、再び窓を開けた。
すると、日本の風が僕を乾かした。

「ふう。」

やはり今日は、いけそうな気がする。
さあ、出掛けよう。今日はデートだ。
しまった。
まだ歯を磨いていなかった。
僕は洗面所に突っ込んでいった。
歯ブラシを右手に持ち、左手で歯磨き粉を握ると、歯磨き粉が消え失せた。

 

『もう眠るしかない』

僕は歯磨きを諦め、スーッとするガムを食べた。

「美味い。」

ガムを吐き捨てると、携帯が鳴った。メールだ。

「今日のデート、3時間遅れます。」

僕は吐き捨てたガムを再び口に入れると、今度は思いっ切り吐き捨てた。

「あの女。」

携帯を布団に投げ捨てると、そこに食パンがあった。
僕は、ひとまず眠るのをやめ、食パンをこんがりと焼いた。
カチーーーーーン
食パンがこんがりと焼けた。

「食パンめ。」

僕は、食パンに噛り付いた。

「不味い。」

僕は食パンを投げ捨てた。
するとそこに、歯磨き粉があった。
僕は歯磨き粉を踏みつぶした。
その瞬間にメールがきた。

「やっぱり遅れません。」

何だか眠くなってきた。
もう眠るしかない。

 

『君は怒り狂っている』

目を覚ますと、もう外は暗くなっていた。
ピンピンポーーーーーン
インターホンが鳴いた。
玄関に転がり込み、ドアを開けると、そこには綺麗な女が立っていた。

「綺麗だ。」

その綺麗な女は、ドアを取り外すと、
ドカンと家に入り込んできて、部屋の真ん中に座り込んだ。
明るいところで見ると、そんなに綺麗ではなかった。

「そんなに綺麗ではないな。」

少し寝ぼけていた僕は、そう女に言った。
女は怒り狂った。

「君は怒り狂っている!」

 

『キスとかをした』

数分後、僕らは仲良くゲームをしていた。
夜になるにつれ、だんだんそういう気分になってきた。
女もきっとそうだろう。
僕はゲームの電源をうっかり消し、その流れでうっかり電気を消し、
女を羽交い締めにした。
女は無言だ。
無言の抵抗だろうか。
きっと心の奥底では、君は怒り狂っている。
だが僕はこの女ともう眠るしかない。
無言の女は、歯ブラシに見えた。
いよいよ、僕の心の歯磨き粉が消え失せた。
そのまま僕とその女は、朝になるまでキスとかをした。
朝になると、卵が動いた。

 

「寝言にならなかった」

 
今、君は、僕の隣で眠っている。
まるで死んでいるかのように。

しかし君は、死んでいない。
嚊がそれを物語っている。

嚊をすることで、君は生きているのだ。

君は決して寝言を言わない。
弱音も吐かない。

 
君が何か言った。

「私はもう駄目かもしれない」

 
君が初めて弱音を吐いた。

でも君は眠っていた。

 
君は寝言を言わなかったが、寝言を吐いた。

 
それは寝言にならなかった。