「人生最高のキス」

駅前。

真正面で向き合っている僕と彼女。
いや正確には、たった今、元彼女になった人。

僕は4年半の時間に別れを告げた。
理由はひとことでは言えない。

何というか、僕と彼女は住む世界が違う。

彼女の周りには、いつもたくさんの友達がいる。
僕はいつも一人だ。

彼女はいつも明るい。
僕は根暗だ。

彼女はいつも予定が詰まっている。
僕はバイトしかしていない。

彼女はいつも笑っている。
僕は彼女のいる前でしか笑えない。

僕には彼女しかいない。

別れを告げたその15秒後、僕は別れを撤回した。

遅かった。

たった15秒で、彼女の気持ちは遥か遠くまで離れ、
もう彼女の目は僕を僕として見ていない。

嫌だ。
別れたくない。

住む世界が違うのが何だ。
性格が違うのが何だ。

僕には彼女しかいない。
僕は彼女といるときだけ生を感じることができる。
ようやくそれに気づけたんだ。

ダメだ。
行かないでくれ。

これからもずっと僕の側にいてほしい!

「もう、遅いよ」

人生の全てはタイミングだ。

15秒、あの子が歩いてくるのが遅かったら。
15秒、家を早く出ていたとしたら。
15秒、電車が早く来てしまっていたら。

そんなことの連続だ。

僕は、そんな大事な15秒を、最悪のタイミングで与えてしまったんだ。

人生の全てはタイミング。

まだやり直せる。
次のタイミングを見誤らなければ。

「じゃあ、私、帰るね」

さあ、どうする。

彼女が僕の返事を待つ限界が、恐らく15秒。
15秒後には、彼女は僕の元から去ってしまう。

考えろ。
15秒間、必死に考え、最良の答えを導き出すんだ。

何を言おう。

どう動こう。

残り、5秒。

だめだ。
何を言っても彼女を引き止められる気がしない。

残り2秒。

どうしよう・・

残り1… 待って!
ガバッ

僕は人生最高のハグをした。

バチーーーーーン!!

人生最高のビンタが帰ってきた

ブチューーーーーーーー!

人生最高のキスで返す。

ガシッ シューー ズドン!

くっ、人生最高のパイルドライバーだ・・

この女とは別れよう。

俺はパイルドライバーをしない女がいい。

「キスの確率」

あーキスしてえーー
どうしよどうしよ。
今電車の中。
目の前にいる女に俺はキスがしたい。
でも今は電車の中。
キスできる可能性は2%といったところか。
これを85%までに上げる。
俺はパーセンテージを上げる天才だ。
メモ帳に文字を書く。
見せる。
彼女は驚きながら無言でほんの少し微笑んだ。
現在10%
僕はもうひとことメモに書き足した。
再度見せる。
また微笑んだ。今度は口を手で押さえている。
15%
LINEのQRコードを出した。
彼女はちょっと困った顔をした。
声に出さず、「おねがい」と口で伝える。
彼女は周りを気にしつつ、ちょっと微笑んだ困り顔をしながらバッグに手を伸ばす。
40%!
スマホを手に取り、何か文字を打っている。
見せてきた。
「110」
1%!!!!!!!!
やばい、騙された。
どうするどうする。
彼女が勝ち誇った顔で、今にも通話ボタンを押そうとしている。
待て、やめろ。
どうする。
金か。金しかない。
俺は財布から1000円札を取り出し、コソッと彼女に渡す。
彼女を身動きせず、ジッと目をみつめてくる。
足りないのか。
もう1枚足した。
ダメだ。
5000円に替えた。
ピクッと彼女の目が動いた。
が、手は動かない。
仕方ない。
10000円を出し、5000円と取り替えたーーと思ったらものすごいスピードで5000円と10000円両方奪われる。そしてチュッと唇にキスをされ、彼女は電車を降りていった。

俺はパーセンテージを上げる天才だ。
現在、電車の中で気になった人とキスをできる確率は100%